20世紀初頭にフロイトが精神分析を生み出し、「病的な行動」を人間の意識と無意識という観点から理解する新たな道を切り開きました。彼の先駆的業績はこの100年の間にたくさんの流れを生み出しましたが、21世紀を目前にした現在、アメリカの心理療法界はフロイトの本来のビジョンへと戻ろうとしています。それは心理療法を病理的行動や病理的人格を「治療」する手段に限るのではなく、心理療法を人間が精神的、心理的、身体的により健康に生きていくための一つの大切な手段として捉えようというものです。
この10年間の経験的リサーチの成果により、心理療法の流派が何百とあるにも関わらず、どの流派も実はその効果において大差がないことが判明してきました。大切なのは、流派や技術の違いではなく、最も基本的な要素つまりクライアント自身の自己治癒力だということです。(「How
clients make therapy work」 Bohart and Tallman 著 American Psychological
Association出版局)私どもJIPのトレーニングプログラムは、この基本的なクライアントの自己治癒力を高める心理療法家を育てることを一番の中心に考えています。
しかしこの「クライアントの自己治癒力を高める」ことは言葉で言えば簡単ですが、実はこれほど難しいことはありません。本当の意味でクライアントと共にいてその治癒力を信頼し育てるためには、心理療法家は精神病理学、発達心理学、様々な臨床技法あるいは、倫理を学ぶことはもとより、長い時間を費やし自己を深く見つめ、多くの体験を積むことが求められます。自らの体験を通して自らの治癒力にしっかりとつながるとともに、クライアントの治癒力を妨げないためには何をすべきかあるいはすべきではないかを常に問いつづけること、それが心理療法家として最も大切な資質だと私たちは考えます。
ではそうした心理療法家になるにはどのような訓練が必要なのでしょうか?専門の心理療法家となるには、臨床心理学系の大学院などで専門家としての基本的な知識を学ぶことは大前提になります。しかしアメリカでもそうであるように、大学院の訓練だけでは一人前の心理療法家になるのに十分だとは言えません。大学院卒業後もスーパーヴァイズを受けながら行う実習や、より高度な訓練プログラムに参加しながら臨床経験を積み重ねることが大切です。
心理療法家訓練の専門家であり1997年アメリカ心理学会第29部会(心理療法)から特別表彰を受けたオタワ大学のA.
Mahrerらは「Jouranal of Clinical Psychology誌」(1999年 55巻4号)が組んだ心理療法の訓練についての特集の中で、心理療法家の訓練に大切な姿勢を次のように指摘しています。
- 「心理療法を学ぶものは、何であれただ一つの考えを真実とみなすのではなく、広い視野と 探求心をもつこと」
- 「心理療法を学ぶものは、熟練した専門家の実際のワークに数多く接すること」
- 「心理療法を学ぶものは、一人一人が人間とは何であるか、心理療法とは何であるかを自ら 考え探求すること」
日本心理療法研究所はこれらの姿勢を大切にしながら、日本国内外のすぐれた心理臨床教育機関、あるいは個人心理臨床家の協力を仰ぎ、特定の流派に偏るこ となく、すべての心理療法の根底にあるべき「心理療法家一人一人の存在の力」を育てるプログラムを選りすぐって提供して参ります。
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