第二部:行動基準
行動基準とは、日本心理療法研究所に所属するものが組織の一員として活動する際に、第一部の倫理規範に基づき倫理的行動を行うための基準となるものである。組織としての様々な役割、立場を考慮して以下の4つの部門毎にそれぞれの行動基準を定める。
I:心理臨床部門 |
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II:教育・トレーニング部門 |
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III:研究・リサーチ部門 |
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IV:経営部門 |
第1条:心理療法とは
心理療法家の専門性は医療、教育とは異なる独自の領域にあり、自らの行為が治療行為ではないことなどその限界を十分に自覚する。
第2条:クライアントの尊重
心理療法家は、クライアントあるいは潜在的にクライアントとなる者に対して、常にその人間的成長と健康を中心に考えた行動を取る。
第3条:クライアントとの契約関係
クライアントと心理療法家との関係は、専門家としての心理療法家とクライアントとの間で契約として結ばれる枠の中で成立する。この契約関係においては、契約関係の性質、予期される期間、料金などが取り決められ、可能な限り文書の形で締結される。この契約時に心理療法家は別紙に定める「クライアントの権利」をクライアントに渡し、クライアントが契約関係においてもつ権利を知らしめる義務を持つ。
第4条:契約関係の変更
クライアントはいつ何時でもこの契約関係を終了する自由を保障される。一方心理療法家が病気、死亡、転居などやむを得ない事情でクライアントとの契約関係を変更する場合、その変更がクライアントに及ぼす影響を十分に考慮し、可能な限り速やかに対処をしなければならない。また、心理療法家が日本心理療法研究所との雇用関係を解消する場合においても、クライアントに最善のケアを提供する手段を整える義務を持つ。
第5条:クライアントと心理療法家の力関係
クライアントが既に何らかのメンタルヘルスサービスを受けている場合クライアントが既に他の場所で何らかの精神医療サービスを受けている場合、心理療法家は自らとの契約関係がクライアントにとってどのような影響を及ぼすかを十分に考慮し、クライアント自身あるいはその法的な代理人、必要な場合は他のサービスを行っている機関や専門家と話し合い、クライアントが混乱することのないように努め、場合によっては契約関係に入らないことをクライアントに提案する。
第6条:クライアントと心理療法家の力関係
心理療法家は、自らの専門家としての役割がクライアントに対してもつ潜在的な力関係の差に常に心を配ることが求められる。また、この力関係の差を意図的に増大したり、延長したり、それを悪用するような行動を決して取ってはならない。
第7条:契約された枠外における接触
心理療法家は、クライアントと結んだ契約関係の枠外でクライアントと接触することに対し常に慎重な行動を取り、そうした接触が契約関係に対して有害な影響をもたらすことを極力避けなければならない。
第8条:契約以前に存在した関係について
契約関係を結ぶ以前にクライアントと心理療法家の間に何らかの関係が既に存在した場合、その関係性が契約関係に及ぼす影響を慎重に吟味し、場合によっては契約関係を結ぶことを差し控える。
第9条:クライアントへの搾取
心理療法家は、クライアントに対し経済的、性的、感情的に搾取することのないよう、常にクライアントの人間性を尊重しその尊厳を守る。心理療法家とクライアントとの力関係と搾取の問題を考慮し、心理療法家は契約において定められた以外の金銭的、物質的見返りをクライアントより受けない。
第10条:クライアントとの性的関係
心理療法家は、クライアントとの間で肉体的にもまた言葉によっても性的関係あるいは恋愛関係を結ばない。また、以前に性的な関係にあったパートナーについては、クライアントとしての契約関係を結ばない。クライアントとの契約関係が終了した時点から少なくとも2年間は性的関係あるいは恋愛関係をもたない。
たとえ定められた期間が過ぎたとしても、過去においてのクライアントと性的関係を結ぶ場合、心理療法家の側でその関係が搾取にあたらないことを示す責を負う。その責とは倫理委員会の調査に応じ、以下のことを文書で明らかにすることである。
1)
契約関係終結後からの経過期間、
2) 契約関係の期間と内容、
3) 終結の状況、
4) クライアントの個人史、
5)
クライアントの心理状況、
6) クライアントあるいはその他の関係者に不利な結果を引き起こす可能性の有無、
7)
契約関係の間の心理療法家のいかなる言動も契約関係後にクライアントと性的関係あるいは恋愛関係に入ることをほのめかすものではなかった事を示す。
第11条:クライアントのプライバシーと守秘義務
心理療法家は、自らのクライアントはもちろん自分以外の心理療法家と契約関係にあるクライアントに対しても、そのプライバシーを守る義務を負う。但し、この守秘義務にはいくつかの制限があり、それについて可能な限り早い時点でクライアントと話し合うことが求められる。また心理療法家がスーパービジョンを受けている場合や、研究、記録など何らかの理由で会話を録音する場合も、前もってそのことをクライアントと話し合う。
守秘義務が制限を受ける場合とは、クライアント自身あるいは他の人の身体を傷つける明らかなおそれや意図がある場合、また幼児などの弱者に対する虐待が行われていることが疑われる明白な理由が存在する場合、その他法律によって定められた報告義務に関わる場合などである。また、第3章の実施要領で述べられるようにクライアントの側から心理療法家の倫理行動や契約関係に対して公式の訴えがあった場合も、守秘義務が制限される可能性がある。
心理療法家は契約を結ぶ時点でこれら守秘義務の制限についてクライアントに十分理解させる責を負う。
第12条:スーパーヴィジョン、および学会発表
心理療法家が現在および過去にもったクライアントのケースをスーパーヴィジョンの場で提示する場合は、その旨をあらかじめクライアントに伝え同意を得る。またケースを学会発表あるいは論文として発表する場合も、クライアントの同意を得た上で特定のクライアントと同定されないような工夫を施しプライバシーの保護に十分努める。
第13条:クライアントへの差別
心理療法家は、クライアントの性別、人種、国籍、年齢、宗教、民族、婚姻、性的な好み、政治的信念、身体的・精神的障害によってクライアントを差別しない。
第14条:心理療法家の専門的能力とサービス内容について
心理療法家は、自らの教育、トレーニング、体験に応じて十分に資格のあるサービス及び技法のみを提供する。この場合の「資格」とは当該サービス・技法の専門家集団による認定だけでなく、そのサービス・技法がクライアントに及ぼす影響に対してその可能性と限界を認識し、自らの責任において対応が可能であることを意味する。
万一資格がないサービス・技法を提供する場合は、資格をもったスーパーヴァイザーによる指導のもとでクライアントの同意を得た上でのみ行うものとする。また専門的な評価の定まっていない技法については、それを行う際に十分な注意を払い、それがクライアントにとって有益な結果をもたらすことを自らの専門性に照らして明らかにする最大限の努力をする。
第15条:他の専門家への紹介
心理療法家は、クライアントに必要なサービスを自らが提供できないと認めた場合、あるいは他の専門家のサービスがクライアントにとってより必要性が高いと判断した場合、適切な専門家をクライアントに紹介する義務を持つ。
第16条:専門的能力の向上
心理療法家は、常にクライアントと社会の新しいニーズを敏感に察知し、自らのよって立つ理論的、技術的限界を常に克服するよう、絶え間ない努力を行わなければならない。心理療法家は自らの専門的能力を向上させる努力を常に怠らず、継続的に教育、トレーニング、スーパーヴィジョンを受ける。
第17条:心理療法家の個人的問題について
心理療法家は、自らの個人的問題がクライアントとの契約関係に与える影響について常に注意し、もし自らの個人的問題がクライアントとの関係に何らかの影響をもたらす可能性がある場合は、可能な限り早期にスーパーヴァイザーあるいは同僚の心理療法家の援助を受け、クライアントに与える影響を最小限に留める。
第18条:心理療法家の経歴などの情報について
心理療法家は、自らの経歴(学位、資格、トレーニングの内容と期間、所属団体、著作、研究履歴など)および要求する料金やサービス内容等について、クライアントに正確に伝える義務を持つ。また、クライアントの求めがあれば関連する文書などでその正確性を証明しなければならない。心理療法家はまたそれらの情報について公の場で意図的に誤った表現や誤解を招く表現をしない。「公の場」には、出版物やメディアで使用されるインタビューやコメント、チラシ、履歴書、講演などを含む。
第19条:他の組織からの要求と守秘義務の衝突
クライアントとの契約関係に関して他の公的組織あるいは第三者から何らかの介入を受け、それが倫理綱領に逸脱する行動を引き起こす可能性のある場合、心理療法家は倫理綱領および逸脱する内容について第三者に説明し、可能な限り倫理綱領を遵守する。
第20条:助言
心理療法家が自らの置かれている特定の状況や自らの行動がこの行動基準に則るかどうか不確かな時には、まず他の心理療法家に相談し助言を求める。また必要な時には、その是非を当研究所の倫理委員会に諮問する。行動基準に反しているあるいはその可能性のある状況や行動を認めていながら適切な行動を取らない場合、それ自体が倫理綱領に反するものであることを認識する。
第1条:参加者の人権とプライバシーの尊重
日本心理療法研究所が主催する講演、ワークショップ、トレーニングプログラム、スーパーヴィジョンを企画、担当する教育者(以後教育者)は、参加者の人権とプライバシーを尊重し、常にその人間的成長と健康を中心に考えた行動を取る。
第2条:教育内容の正確さと限界
教育者は自らが教えたりトレーニングする内容が学問的に正確なものであることに常に留意する。また、特別の訓練を必要とする内容については、その資格をもたない限り教えない。
第3条:記述の正確さ
教育者は、企画、担当する教育プログラムの宣伝、広告の記述において、その目的、内容、教育者自身および講師の経歴(学位、資格、トレーニングの内容と期間、所属団体、著作、研究履歴など)料金などについて可能な限り正確な情報を提供する。
第4条:教育者と参加者、スーパーヴァイジーの力関係
教育者は、教える側としての役割が参加者やスーパーヴァイジーに対してもつ潜在的な力関係の差に常に心を配り、参加者を経済的、性的、感情的に搾取しない。また、この力関係の差を意図的に増大したり、延長したり、それを悪用するような行動を決して取らない。
第5条:スーパーヴァイジーとの性的関係
教育者はスーパーヴァイジーと肉体的にもまた言葉によっても性的関係あるいは恋愛関係を結ばない。スーパーヴァイジーとの教育、トレーニング関係が終了した時点から少なくとも2年間は性的関係あるいは恋愛関係をもたない。たとえこの期間が過ぎていても、以前のスーパーヴァイジーとそうした関係を結ぶ場合、教育者の側でその関係が搾取にあたらないことを示す責を負う。その責とは以下のことを明らかにすることである。
1)
契約関係終結後からの期間、
2) 契約関係の期間と内容、
3) 終結の状況、
4) スーパーヴァイジーの個人史、
5)
スーパーヴァイジーの心理状況、
6) スーパーヴァイジーあるいはその他の関係者に不利な結果を引き起こす可能性の有無、
7)
契約関係の間の心理療法家のいかなる言動も契約関係後にスーパーヴァイジーと性的関係あるいは恋愛関係に入ることをほのめかすものではなかった。
第6条:プライバシーと守秘義務
教育者は、参加者、スーパーヴァイジーのプライバシーを守る義務を負う。また参加者同士にも守秘義務についての情報を与え注意を促す義務を負う。
但し、この守秘義務にはいくつかの制限があり、参加者、スーパーヴァイジーにそれについて説明する。また教育者が教育、研究目的で会話を録音、録画する場合も、前もってそのことを参加者、スーパーヴァイジーと話し合う。
守秘義務が制限を受ける場合とは、クライアント自身あるいは他の人の身体を傷つける明らかなおそれや意図がある場合、また幼児などの弱者に対する虐待が行われていることが疑われる明白な理由が存在する場合、その他法律によって定められた報告義務に関わる場合などである。また、第3章の実施要領で述べられるように教育者の倫理行動や契約関係に対して公式の訴えがあった場合も、守秘義務が制限される可能性がある。
第7条:スーパーヴィジョン、および学会発表
教育者が現在および過去にもったクライアントのケースをスーパーヴィジョンの場で提示する場合は、その旨をあらかじめクライアントに伝え同意を得る。またケースを学会発表あるいは論文として発表する場合も、クライアントの同意を得た上で特定のクライアントと同定されないような工夫を施しプライバシーの保護に十分努める。
第8条:参加者、スーパーヴァイジーへの差別
教育者は、参加者、スーパーヴァイジーの性別、人種、国籍、年齢、宗教、民族、婚姻、性的な好み、政治的信念、身体的・精神的障害によって差別をしてはならない。
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