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大うつ病は気分障害で、主要な抑うつ症状のうち一つ以上の症状(気分の落ち込みが2週間以上続く、何に対しても興味や喜びが感じられないなど)と、次のような症状が四つ以上伴うのが特徴である。睡眠、食欲、体重、精神運動活動の変化;活動力の減退;無価値観または罪感;ものを考えたり、集中したり、意思決定をしたりできない;死について繰り返し考える、あるいは自殺の観念形成、計画、企図をする、など。気分変調症または気分変調性障害は「気分の晴れやかな日よりも落ち込んだ日の方が多い状態が2年以上続き、主要な抑うつ症状の基準に合致しない他の抑うつ症状が伴うことが特徴である(American Psychiatric Association, 1994, p. 317)」。 うつ病はごく一般的で治療可能性の高い疾患であり、米国での成人の有病者は年に1,700万人を上回る。うつ病はいったん診断がつけば心理療法または薬物療法、もしくは両者の併用によってほぼ治療することができる。しかし残念ながら米国の健康管理政策研究局(AHCPR)によれば、うつ病はプライマリーケアや精神科以外の開業医のもとでは診断率、治療率ともに低い。 大うつ病は社会的および身体的機能に深刻な障害を引き起こす原因となり、しばしば自殺の大きな誘発要因となる。また、うつ病は医療費の高額化、障害の重度化、自己管理能力と治療プログラム順守度の低下、および他の内科的疾患による罹患率や死亡率の増加を引き起こしてきた(Katon & Sullivan, 1990)。 男性に比べると、女性の大うつ病および気分変調の発症率は約2倍である(Research Agenda for Psychosocial and Behavioral Factors in Women's Health, 1996)。うつ病は女性、特に妊娠出産期および子育て期にある若い女性にとって精神衛生上の最大のリスクとされてきた(Glied & Kofman, 1995)。 女性がうつ病と診断された場合、その約30%から50%は誤診である。抗うつ薬の処方件数の約70%は女性に対してだが、不適切な診断やモニタリングが行われていることが多い。処方薬の濫用は女性にとって非常に差し迫った危険である(McGrath et al., 1990)。 |
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■うつ病の危険因子 高レベルの抑うつ症状は、経済的問題を抱えている人や社会経済的に低い地位にいる人に特によくみられる。教育レベルの低い人々や職のない人々のうつ病リスクが高い。これらの危険因子は女性に高率で現れる(McGrath et al., 1990)。 有色人種の女性は白人女性よりも、人種・民族差別、教育レベルや所得レベルの低さ、地位が低くストレスの多い仕事への差別的配属、失業、不健康、大家族、離婚、母子または父子家庭であるなど、うつ病の社会経済的リスクを抱えている率が高い(McGrath et al., 1990)。 移住や文化変容などの影響にさらされている女性たちは、そのような葛藤がない女性に比べてうつ病の有病率が高いという報告がある。その一例として、米国の国立保健統計センター(NCHS)(1994)は、66歳以上のアジア系アメリカ人の女性の自殺率が、すべての民族・人種グループの女性の中で最も高いことを指摘した。さらに、アジア系アメリカ人の青年期の女子は、全人種グループのうち抑うつ症状の発症率が最も高く、15歳から24歳までの女性の中の自殺率が最も高い。 性的虐待および身体的虐待の発生率は従来考えられていたよりもはるかに高く、女性のうつ病の主要な因子となっている。抑うつ症状は多くの女性にとって心的外傷後ストレス障害(PTSD)の積年の結果と言えるかもしれない(McGrath et al., 1990)。 既婚女性は未婚女性よりもうつ病の有病率が高いが、男性の場合はこの逆である。結婚がもたらす心の安定というメリットは、女性よりも男性に対して大きいようである。不幸な結婚の場合、女性が抑うつ状態になる率は男性の3倍である。女性の抑うつ症状と意欲喪失のリスクは幼い子どもを持つ母親で高く、家庭内の子どもの数に比例して高くなる(McGrath et al., 1990)。 |
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■今、何が必要か 女性と男性間の、(既存の治療法を含む新しい精神薬理学的、心理社会学的治療法などの)治療法に対する反応パターンの違いに関する研究を拡充すること。成果評価には認知的、心理社会学的機能についての多様な基準、ならびに症状の評価を含むべきである(Kessler et al., 1994)。 うつ病の予防法を開発する研究に資金を配分すること。初めての発病から回復した患者の50%以上がうつ病を再発している(Frank et al., 1990)。治療に加え予防にも力を入れる必要がある。 精神病に対する保険の適用を、身体の病気と同等になるよう拡張すること。手の届きやすい価格で利用しやすいメンタル・ヘルスケアやそれに関連したヘルスケアは、保険の利用を促進する上での最重要要素である。しかしながら、ほとんどの保険の適用範囲はごく短期の治療を除いて、ほぼ全てに関して不十分である。 治療を阻害する要因、ならびに治療の開始および継続、治療法に従う際の方法について研究すること。効果的な介入法は数多く用意されてはいるが、精神障害のある人の大半は専門治療を受けていない。三つ以上の合併症の履歴がある人々でも、精神科専門医の治療を受けたことがある人は50%に満たない(Kessler et al., 1994)。 さまざまな層の女性におけるうつ病の危険因子に関する研究を進めること。青年期の女子、レズビアン、有色人種の女性、地方在住の女性、高齢女性など、多様な女性サブグループごとのリスクに関するデータは少ない。 大うつ病の基準に適合しない抑うつ症状を持つ女性に関する研究を進め、治療的関心を高めること。抑うつ症状が出現すると、うつ病と明確に診断された場合と同様に受診回数が増加し社会的障害が生じる。抑うつ症状のある人々は、救急部門の利用率、投薬の回数、感情不調に関する受診数、自殺の企図数、不就業日数について、うつ病と診断された人々と同等もしくはそれを上回っている(Glied & Kofman, 1995; Johnson et al., 1992)。 うつ病の治療効果を検証する研究を促進し、病気を持つ女性の回復率、生存率を高めること。大うつ病は罹患率上昇の要因であり、他の病気を抱えた患者の死亡率に対する独立危険因子である(Frasure-Smith, et al., 1993)。病気を持つ女性や、内科的疾患の高い罹病率を持つ高齢女性(病気にかかる率が高い)におけるうつ病の診断と治療を、研究の中心に据えるべきである。 |
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アメリカ心理学会ホームページより(2006) | ||||||||||||||||
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